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路傍の神々(52) 古田の薬師如来

 短い夏の夜が白みはじめる頃、朝露の中を古田の里へ行ってみました。

 

 古田の公民館前の二又の道を左へ、相野沢方向へ進むと、今回は、この墓地入口にある石仏群の中から薬師如来座像を訪ねます。

 

 薬師如来は、「お薬師さん」と呼ばれ、親しまれている仏様です。東方にある極楽浄土瑠璃(るり)光世界の教主で、人生をまっとうして衣食住の生活を安穏(あんのん)にし、病苦不具などを払うとされています。

 

 このことから万病を癒(いや)し、人の寿命を延ばし、医薬をつかさどる仏とされています。薬師信仰は古く天武9年(680)、天武天皇が皇后の病気平癒を祈って薬師寺(奈良県奈良市)を建立(こんりゅう)したのがはじまりで、薬師如来を本尊としています。以後、時代と共に広く信仰され現代に至っています。

 

 

 

 古田の薬師如来は舟形光背に半肉彫りで、慈悲深く優しい顔をしています。手は禅定印(ぜんじょういん)を結び、両手で薬壺(やっこ)を持っています。

 

 禅定印の薬師如来は珍しく、覚園(かくおん)寺(神奈川県鎌倉市)、金竜寺(東京都調布市)、栃窪薬師堂(栃木県鹿沼市)、輪王寺の笑い薬師(栃木県日光市)、観音院(埼玉県秩父郡小鹿野町)などで、その例は少なく貴重な文化遺産です。

 

 医薬の充分でなかった時代の人々の、薬師如来に祈った民間信仰の名残りがみられます。当時の粗末な食事と不衛生、苛酷(かこく)な労働などの生活環境により、医者にもかかられず一心に、人々はこの仏に祈ったのでしょう。

 

 この薬師如来が作られたのは江戸時代と推定できます。

 

 健康に感謝して手を合わせ、古田の里を後にしました。

 

 高さ53cm 石造

 

平成9年(1997)7月20日 第330号掲載

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