第1回
―子育ての中心に「和顔(わげん)愛語(あいご)」の精神を―
「認めて ほめて 励まして」
このたび、教職50年にわたる実践・体験に基づき、4回にわたり家庭教育、学校教育に付いて参考になると思われる事柄をいくつか、紹介させていただきます。
◇「和顔愛語」と「3つのとげ」の教え
「和顔愛語」は「優しい笑顔と優しい言葉」という意味ですが、特に鎌倉時代の道元(どうげん)禅師(ぜんじ)は著書の中で、「愛語とは愛の言葉であり、あらゆるものに対して、まず慈しみの心をもって、いとおしみ、思いやる言葉をかける事であり、乱暴な言葉や悪意のある言葉を吐かない事である」と言う趣旨を述べております。
「3つのとげ」とは「倉橋惣三(くらはしそうぞう)」先生(教育哲学者)の言葉で、「私たちの目にとげはないか。私たちの言葉にとげはないか。私たちの気分にとげはないか。」(「子育ての心」)という事です。
「和顔愛語」に通ずるものがあり、いずれも味わい深い言葉で、座右の銘としています。
◇「あなたのお子さんの良いところ(長所)を10個あげてください」
小学校の校長の時、家庭教育学級で右の質問をし、答えを紙に書いて頂きました。
2つぐらい書いたところでペンが止まり、「悪い点はいくつでも書けるが・・」という声があがりました。
減点法でなく加点法で「良い点を見つけよう」と言う姿勢が大人(親・先生)に必要です。
出来ない所を見つけて、「だめだ、だめだ」と言うことが多いと、子どもはやる気を失い、子どもの伸びる力を抑えてしまいます。
「3つのとげ」の教えを胸に、年齢に応じて、時には「当たり前のこと」でも、認めてほめて、励まし続けることが大切です。
親や教師の接し方で子どもの心は安定し、自分の良さに気付き、自信を持って、意欲的に生活するようになった例を、確認できました。
実践されるようお勧めします。
◇「昨日は『ありがとう』を何回、(家族に、他人に)言いましたか」
これも家庭教育学級で質問したことです。
「ありがとう」という言葉は「愛語」であり、「和顔」でこの愛語を、1日10回は言うように心がけ、寝る前に、「今日は何回言えたかな」と振りかえりました。
皆様もいかがですか!
人間は大人でも、笑顔でほめられれば嬉しいものです。
道元は、「直接に褒められれば、顔はほころぶし、心も楽しくなり、また 自分がいないところで自分について、愛語が語られたことを伝え聞けば、それが自分の魂に深く刻み込まれ、その人々の愛情や親切心は、忘れられないものとなる」(「修証義(しゅしょうぎ)」)といっています。
まちづくり情報紙かわち 第56号
(平成28年9月発行)より
第2回
しつけは人生の土台作り、はきものをそろえると心がそろう
前回は子育てをする上で、子どものよさを見出し、子どもの立場に立って、子どもの心に響く言葉かけをすることが、子どものやる気を伸ばす上で有効である事をお話ししました。
今回は、時折新聞紙上で、話題になる「しつけ」について考えてみたいと思います。
◆「しつけの3大原則」
しつけについては年齢、発達段階、家庭の方針等によっていろいろな考え方があると思いますが、教育学者 森信三先生は「しつけの3大原則」について次のことを提案されております。
①朝、必ずあいさつをする。
②呼ばれたら必ず「はい」とはっきり返事をする。
③はきものをぬいだら、必ずそろえ、席を立ったら、必ず、イスを入れる。
これらを身につける事は、社会生活を送る上で、必要なことと思っています。
この3つは幼稚園、保育園に入る頃から始める事が望まれますが、小学生であっても決して遅くはないと思い、校長時代に、教職員、保護者と相談の上、「豊かな心」の育成の一環として、その実践化を図りました。
幸い家庭と地域の協力が得られ、心を一つにした教職員の努力のお陰で、元気なあいさつと返事が聞かれるようになり、さらに昇降口の靴入れ(下駄箱)には、きちんと靴が揃えて入れられる等、確かな成長が見られました。
◆「はきものをそろえる」
成長の様子を学校便り等で報告したところ、地域の方から下記のポスターを頂きました。
早速、教室に張り出したところ、6年生から「心がそろうと はきものもそろう、だれかが、みだして おいたら だまって そろえて おいてあげよう」という言葉がすごいと話してくれました。
NHK朝の連続テレビ小説「ととねえちゃん」では、家族が帰宅すると、全員が必ずはきものをそろえるシーンが見られました。
しつけの行き届いた、心のそろった温かい家庭だなと、感心して見ていました。
しつけは人生の土台作りであり、良いしつけを身に付けた子どもは、良い人間関係が結べ、その後の人生が豊かになると思います。
子どもは親の立ち居、振る舞いから学んでいます。
しつけと称し、大人や親の感情で子どもを怒ったり、懲らしめたりすることは、厳に慎まねばならないと思っています。
まちづくり情報紙かわち 第57号
(平成29年1月発行)より
第3回
「無限の可能性を持つ子供の確かな成長」のために
成果を上げるためには目標が必要
◇お子様の学校の「教育目標」をご存知ですか?
四月。
希望に満ちた新年がスタートしました。
各学校は入学式、授業参観、PTA総会等で、「教育目標や教育方針、各種計画や努力点」等を保護者・地域に示し、理解と協力をお願いしていることと思います。
「『教育目標』なんて、関係なさそう」などと言わずに、是非耳を傾け、心に留めてください。
何かをしたいと思ったら、まず目標、次に、そのための計画が必要で、それを実行することにより、良い成果が生まれます。
即ち「目標 計画 行動 結果」を念頭に置くことが必要となります。
その意味で教育目標が大切なのです。
教育目標には「どんな子どもに育てたいか」の願いと「無限の可能性を持つ子供の確かな成長を目指す覚悟」が示されていると思います。
学校の説明や情報を理解、共有し、ともに進む姿勢が子どもの成長に繋がるものと信じています。
◇お子様の学校の「合言葉」はどんなことでしょうか?
皆さんは、ご自分の小・中学生時代の「合言葉」等を覚えていますか。
「合言葉」と言えばこんなことが思い出されます。
実は、校長を五年間勤めた宇都宮東小の三十歳になる卒業生達が一昨年十月に同窓会を開催し、思いがけずに、そこに招待されました。
「校長先生、お久しぶりです。毎朝昇降口で挨拶とじゃんけんをしたこと、先生から教わった「三つの玉」(合言葉)のことは今でも覚えています。」などと話が弾みました。
担任でもなかった私を招待してくれたことに感激するとともに、小学校の合言葉を覚えていてくれたことに感動しました。
また、当日が八十歳の誕生日だったことを覚えていてくれた有志が、同窓会後「祝賀会」を開いてくれた気働きに胸が熱くなり、今でも感謝しております。
◇小学校で学んだ「合言葉」が役だっていました
今年も元旦に校長時代の教え子から何通かの年賀状をいただきました。
「昨年の同窓会では、二十年ぶりにお会いできて嬉しかったです。私も結婚し、子どもが生まれましたが、小学生の時に教わった『三つの玉、(ねばり玉、気づき玉、親切玉)を磨こう』の合言葉を三歳の娘に教えています。娘にも分かるように『ねばり玉 がんばり玉、親切玉 やさしい玉』と換えてみました。本人も『やさしい玉ピカッ!』と言って張り切っています。宇都宮東小で学んだことを育児に役立てています。」(M子)とありました。
保護者の皆様、年度の初めにあたり、お子様に「目標 計画 行動 結果」の過程と、「目標」を持つことの大切さを年齢に応じた言葉で話し、「教育目標」や「合言葉」の実現に努力するよう、励まして頂きたいと願っています。
宇都宮市立東小学校の額
まちづくり情報紙かわち 第58号
(平成29年4月発行)より
第4回
「指示待ち、させられる生活」から「自ら向上しようとする生活」へ
豊かな心、実践力が育つ「新たなる発想による学校清掃」
◆学校清掃―「サボりの時間から、自問の時間に」
「掃除止めて廊下の隅に騒ぐ児ら 一人が唇に指を当てたり」(昭男)
私が始めて小学校長になった時、先輩のE校長先生から頂いた短歌です。
学校での清掃の風景が目に浮びます。
学校では掃除(以下清掃と表記)を通し、「働くことの喜び」や「奉仕の精神」を養おうとしていましたが、清掃の時間といえば、つい気が緩み、おしゃべりに夢中になり、中には追いかけっこや、いじめ、けんかで怪我をする子も出るなど、先生方は指導に苦労をしていました。
当時、「掃除サボリの教育学」という本が出るくらいで、清掃サボリが話題になりました。
子どもたちに、清掃について感想を聞くと、「清掃はやりたくない、やる意味が分らない、面倒くさい、やらないと叱られるからやる、みんながサボっているから自分もサボル」等、受身のマイナスの答が返ってきました。
皆様方の時はいかがでしたか。
◆「自問清掃」と言う言葉を聴いたことがありますか。
そんな折、長野県の教育者竹内隆夫先生(私の恩師)が「新たなる発想による清掃活動」と言う清掃のプランを発表されました。
これは清掃活動を、自らの生き方を問いつつ徳性の向上を図る実践の場として、「させられる清掃から、子どもたち自身が進んでする清掃」、「きれいにする目的の清掃から心を育てる徳性向上の時間」へと発想の転換を計ろうとしたものでした。
このプランでは「人間にとって価値ある生き方とは、まず自らの意志力や創造性を養うことである」とし、(1)清掃作業を、「意志力(我慢と粘りー黙って、時間一杯)、創造性(気付き、発見―進んで汚れを見つけ)、情操―気働き、感謝、正直」を高めるための手段と考え、(2)教師の姿勢としては、自発性を生かすには「作業中の指示、命令、話しかけをせず、生徒を信じ、自発性の発露を待ち続けること」としました。
子どもたちは①「黙って、人に迷惑をかけず、時間一杯」やっているか、②「進んで汚れや仕事を見つけよう」としているか、③「友人へ気働き、親切、学校への感謝の気持ちはどうか」等を自分に聞き、自問しながら、正直な気持ちで清掃に取り組むものです。
◆清掃は、毎日15分、継続的に時間が確保されている実践の場
「毎日自分を見つめさせ、自分の徳性を高め、人生を切り開く行動力を養う」、この「自問教育」は、長野県は勿論、全国で多くの学校で取り組み、これで「子どもの心が育ち、いじめや暴力のない楽しい学校になった」との報告もあり、栃木県でも自問清掃を導入し、成果を上げている学校があると聞いています。
皆さん方も、学校参観や訪問時には、授業の他に、自問清掃の意義に思いを馳せていただければ幸いです。
参考文献:「自問活動のすすめ」 竹内隆夫著(第一法規)
「宇都宮市立東小学校自主公開研発表研究紀要」(H・8・2・9)
まちづくり情報紙かわち 第59号
(平成29年7月発行)より
第5回
◆忘れ物を取りに帰る子
「登校見守り」活度を、毎朝通学路に立って、行っているが時々「忘れ物」を取りに必死で家へ駆け戻る子を見かける。
「胸章を忘れた」という。
「学校に遅れても良いから、事故に合わないように」と声をかけて励ましました。
私が校長時代にも、忘れ物をする子が見られ、家に取りに帰ったり、友達に借りてトラブルを起こしたりするなど、授業に支障をきたす場面を、時々見受けました。
そこで私が実践している、「忘れ物防止法の方法」を朝礼(校長講話)で児童に紹介し、一緒に考えました。
◆朝礼での児童への呼びかけ
「校長先生はね、と時々「ハンカチや時計、名刺」を忘れて困ったことがあるの。そこで出かける前に、「おまじない」を唱えてチェックしているの。これから、忘れ物をしない「お呪いの話をしますね。」と言いながら標記の文「はとが まめ くってぱっ!」を一文字ずつ紙に書いて示しました。
最初の「『は』は何でしょうか?皆が持っているよ」。
「ハンカチ」という声が返ってきました。
以下、順々に一文字ずつ、その文字で始まる持ち物を考えさせ、「がまぐち」や「万年筆、パス」。などの聞きなれない言葉は、実物を見せながら説明しました。
『と』は時計、『が』はがまぐち(財布)、『ま』は万年筆、『め』は名刺、『く』はくし、『て』は手帳、『ぱ』はパス、と実物を示し、みんなで二、三回大声で読みました。
◆自分あったお呪いをつくろう
「今のは大人向きのものです。今度は自分で忘れそうなものを考え、お呪いを作ってみよう。お家の人と一緒に考えると好いね。」と話しました。
早速、次の日、子どもから、自分で考えたお呪いが担任に届きました。
「私は、『ハム』です。ハンカチと胸章です。」
「僕は、『しゅ、しゅ、しゅ、しゅ、』です。宿題、集金、習字、シューズです。」
「〇〇は『ハムチ』です。ハンカチ、胸章、チリ紙です。」 そのた。
◆次週の朝会でこれらを全児童、教職員に紹介し、共有しました。
担任の報告によると、自分が考えたものなので、家を出るときに、前日 玄関に用意して置いたカバンを背負う前に、お呪いを唱えて、チェックしているとのことです。
また「お父さんに、『はとがまめ…』のお呪いを教えたら、『これは役に立つ』と喜んでいました。」との報告を受け、嬉しくなりました。
まちづくり情報紙かわち 第60号
(平成29年10月発行)より
駅前一区 五月女 勝正